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Blog vol.001 「使えない」と「使わない」は、違う

CODAS 最高プロジェクト責任者 長谷川 潤

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CODASという団体を立ち上げました。

ブログの最初の一本目に何を書くか、正直かなり迷いました。設立趣意のようなものを書けば体裁は整うのですが、それはウェブサイトの別のページに載っています。だからここでは、なぜ自分が多くのパートナーや協力者の元で皆とこれをやろうと思ったのかを書きます。

まず、ひとつの数字から入らせてください。

項目 日本 米国 ドイツ 中国
個人の生成AI利用経験   26.7%   68.8%   59.2%   81.2% 
企業の業務での生成AI利用   55.2%   90.6%   90.3%   95.8% 

総務省『令和7年版 情報通信白書』(2024年度調査)の数字です。

この手の国際比較が出ると、だいたい「日本は遅れている」という話に落ち着きます。ただ、私はその読み方にはあまり同意しません。26.7%は前年度の9.1%から3倍近くまで伸びた結果ですし、調査自体が2024年度の実施です。いま同じことを聞けば、もっと高い数字が出るでしょう。日本人がAIを嫌っているわけでも、使いこなせないわけでもない。

私が引っかかったのは、別のところでした。

同じ白書によると、生成AIの活用方針を「策定済み」と答えた日本企業は49.7%。大企業で約56%、中小企業では約34%です。つまり半数以上が、まだ何も決めていない。禁止すると決めたわけでもなく、決めないまま止まっている。

決めていない、ということは、迷っているということです。

迷いの中身

帝国データバンクが今年3月に1万312社から回答を得た調査があります。生成AIを業務で活用している企業は34.5%。そしてその活用企業のうち、86.7%が「効果が出ている」と答えている。

使い始めさえすれば、価値はだいたい出る。にもかかわらず、多くがまだ始めていない。

同じ調査で挙がった懸念の上位は、情報の正確性(50.4%)、専門人材・ノウハウの不足、活用すべき業務の範囲、そして情報漏洩のリスクでした。

私自身、この一年、金融機関や保険会社、事業会社の方々と話す機会が何度もありました。そこで繰り返し聞いたのは、だいたい同じ趣旨の一言です。

「うちのデータは、外に出せないんです」

取引データ。契約者情報。診療記録。出せない理由を聞くと、みなさん即答されます。理屈の問題ではなく、預かっているものの「重さ」を知っているからです。

熱意がないから動けないのではない。逆でした。責任感があるから動けないのです。

その迷いは、正しい

そして、その慎重さは正当なものだと思います。

個人情報保護委員会の2025年度年次報告によれば、企業・行政機関から報告された個人情報の漏えい等は19,417件。前年度比では8%減ったものの、過去2番目の多さです。うち民間事業者が17,139件。病歴や信条といった「要配慮個人情報」を含むものが、全体の約6割を占めました。

IBMが7月に出した『Cost of a Data Breach Report 2026』も、なかなか厳しい内容でした。漏えい1件あたりの世界平均コストは499万ドル、前年比12%増で過去最高。悪意ある侵害の4件に1件はAIを悪用したもので、前年から56%増えている。そちらの平均コストは600万ドルです。

一方で同じレポートは、セキュリティにAIと自動化を使っている組織が平均で約200万ドルのコストを抑えられているとも書いています。

AIは攻める側の武器にもなり、守る側の武器にもなる。この二択で語られがちですが、日本の多くの組織は、そもそもその土俵に上がれていない。三つ目の状態に置かれているわけです。

どんな場面であっても、安心と安全が先に来る。この順番だけは、私たちは譲らないつもりです。安全性はイノベーションのブレーキではなくて、社会に受け入れられるための入り口だと思っているからです。

日本の品質、という話

少し脇道に逸れます。

1964年の東海道新幹線の開業以来、フル規格新幹線の全線で、脱線や衝突による乗客の死亡事故は一件も起きていません。運んだ人は累計70億人を超えます。

もちろん、事件や災害と無縁だったわけではありません。それでも、60年にわたってこの記録を維持してきたという事実は、やはり異常なことだと思います。

日本車の耐久性もそうですし、異常に気づいた人がラインを止めていいという製造現場の文化もそうです。誰も見ていないところをきちんと作る。壊れない。期待を裏切らない。日本はこれを、コストではなく価値として世界に示してきました。

では、AIはどうでしょう。

速さとスケールの競争では、正直、私たちは最前線にいないかもしれません。パラメータ数でも、計算資源でも、資金量でも。

ただ、「安心して預けられるかどうか」という品質の競争であれば、話はまったく別です。それは日本がいちばん長くやってきた種目だからです。

市場もそちらを向いています。IDC Japanの予測では、国内AI市場の支出額は2025年の2兆3,725億円から、2029年には6兆8,897億円へ、年平均36.0%で伸びる。この巨大な数字の中に、「機微なデータを扱えないという理由だけで手つかずになっている領域」がどれだけ含まれているか。私たちが見ているのは、そこです。

データは動かさない。モデルが動く。

CODASは、産学官が連携して秘匿性を担保したAI基盤をつくり、社会実装するための一般社団法人です。

考え方は、一行に集約できます。

データは動かさない。モデルが動く。

これまでのAI利用は、データを外に送り出すことが前提でした。だから「出せないデータ」を持っている組織は、そもそもスタートラインにすら立てなかった。

その前提をひっくり返します。機微なデータはその場に留めたまま、モデルの側がデータのところへ行く。差分プライバシー、秘匿計算(MPC)、準同型暗号、TEE(Trusted Execution Environment)といった技術を組み合わせて、学習と推論の全レイヤーで秘匿性を担保する。そして使う人から見れば、その複雑さは一切意識せずに、複数のモデルを一つの画面から扱える。

言うのは簡単ですが、やるのは相当難しい。それは承知しています。

活動としては、三つを並走させます。

  • 創る — 技術を研究し、モデルをつくる
  • 使う — 金融・保険をはじめとする産業のユースケースを実際に回して検証する
  • 広げる — 開発者コミュニティや教育、OSS公開や標準化に取り組む

このうち「広げる」を、私たちは同じ重さで置いています。囲い込めば短期の優位は得られるかもしれません。でも、社会全体の安心・安全は一社では絶対に実現できない。だから成果はオープンにするし、秘匿性の標準は日本から出していきます。

「日本発のAI」であること自体が目的ではありません。日本が世界に対して果たせる役割がある、という確信のほうが先にあります。

ここからは、個人の話です

私は決済の仕事に長く携わってきました。他人のもっとも繊細なデータを、毎日預かり続ける仕事です。

決済は毎秒信じられない量の情報が流れてきます。「誰が」「どこから」「何を」「いくらで」「どのような決済方法で」「どのくらい」購入したのかなどのデータが数百ものパラメーターで送られてくるのです。

そこで学んだことが一つあります。信頼は積み上げるのに何年もかかるのに、失うときは一日もかからない。

さきほど「1件あたり499万ドル」と書きましたが、あれは平均値です。実際に起きるのは平均ではなく、個別の一件です。事業も、そこにいる人の時間も、一度で吹き飛ぶ。平均値には出てこないその重さのほうを、私は現場で見てきました。

だから今のAIの流れに対して、期待と同じくらいの危機感があります。

利便性が先に走って、安全性が後を追う。事故が起きてから規制ができて、規制ができた頃には信頼はもう戻っていない。この順番を、私たちは過去に何度も見てきたはずです。

私はこれを逆にしたい。安全性を後から足すのではなく、最初から設計の真ん中に置く。そのうえで、性能もコストも使い勝手も妥協しない。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、そこを両立させないと意味がないと思っています。

そして正直に言えば、これは一企業でやろうとして無理だと分かった話でもあります。産業界と研究者と行政が同じテーブルにつく必要がある。一般社団法人という形をとったのは、そのためです。

つくりたいものは、たぶんAI基盤そのものではないのかもしれません。

自分の子どもの世代が、自分のデータがどこで何に使われているかを気にせずに、AIの恩恵を当たり前に受け取れている。その状態のほうが、本当につくりたいものです。

まだ何も成し遂げていません

CODASは生まれたばかりの団体です。掲げているものに対して、実績は完全にこれからです。それは自覚しています。

それでも、いちばん時間のかかる道を選びました。

研究者の方。事業会社の方。開発者の方。行政の方。そして、AIに期待と不安の両方を持っているすべての方。一緒にやっていただけませんか。

これから、ここで進捗を書いていきます。うまくいったことも、いかなかったことも。

CODAS 最高プロジェクト責任者 長谷川 潤


参照資料


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一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)は、「安全・安心なAI社会」の実現を目指す非営利・中立の法人です。データプライバシー技術の研究開発と、そのオープンソース化による社会実装を推進しています。データを外部に出さずにAIを高度活用できる「Privacy-First AI」基盤を「創る・使う・広げる」ことを基本理念に掲げています。


≪本件に関するお問い合わせ先≫

一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)イベント事務局 E-mail:info@codas-ai.org