【ローンチイベント:Session1】日本のAI・デジタル政策の現在地と「 Privacy-First AI」が握る勝ち筋
日本がAI基盤を自ら構築し、フィジカルAIや現場データを強みに競争力を高める方向性が示された。その鍵として、データを守りながらAIを活用するCODASの秘匿化技術への期待が語られた。
世界のAI開発競争が激化する中、日本はどのような戦略でこの波に立ち向かうべきなのでしょうか。
本記事では、経済産業省の渡辺琢也氏とCODAS最高プロジェクト責任者の長谷川潤氏による対談の模様をお届けします。日本のデジタル政策の最前線から、データ主権の在り方、フルスタックでのAI基盤構築、そして日本企業が世界で勝ち抜くための道筋が熱く語られました。
① 登壇者
- 渡辺 琢也 氏(経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課長 兼 AI産業戦略室長)
- 長谷川 潤 氏(一般社団法人AIデータ主権共創機構 最高プロジェクト責任者)
②セッションサマリー
本セッションでは、日本のAI戦略の現在地と、政府が期待する成長分野について深い議論が交わされました。 渡辺氏は、AIがあらゆる社会インフラとなる中、日本が国家主権を保つためには、深い基盤レイヤーからアプリケーションまで「フルスタックで独自のAIエコシステム」を構築する必要があると強調。特に日本が得意とする「フィジカルAI」の社会実装や、現場の暗黙知のAI化が日本の勝ち筋として提示されました。 さらに、企業が自社の競争力であるデータを守りながらも、社会全体のAI性能を底上げするための「協調と競争の境界線」をどう引くかという課題において、CODASの秘匿化技術への高い期待が示されています。
③セッションの詳細
■ AIは新たな「インフラ」。国家主権を守るためのフルスタック戦略
セッションの冒頭、長谷川氏から「日本政府がインフラと呼ばれる深いレイヤーからアプリケーション層に至るまで、多岐にわたるAI支援を行っている目的」について問われた渡辺氏は、国家のあり方に関わる強い危機感を口にしました。
「私が言うまでもなく、AIは社会に浸透し、もうあらゆるインフラになるということだと思うんですね。日本は人手不足ですし、少子高齢化で生産性を上げないといけない。エッセンシャルサービスを維持できるのかと考えた時に、このテクノロジーをしっかり使っていかなければなりません」(渡辺氏)
「インターネット以上に意識せずに社会に浸透していくと考えたときに、これ(AIインフラ)は電気や道路を自分たちで作るのと同じです。しかもAIは知能そのものですから、国家の価値観も含めて形成される。これを自分たちで作れないというのは、国家主権としてまずいんじゃないかと思うわけです」(渡辺氏)
渡辺氏は「日本は幸いにも頑張れば、一番深いレイヤーからアプリケーションまで全部できる。エコシステムをちゃんと築こうと思った次第です」と、政府のフルスタック支援の背景を力強く語りました。
■ 日本の勝ち筋は「AIの社会実装」と「現場データのマネジメント」
では、世界の中で日本はどこで勝負すべきなのでしょうか。渡辺氏は「日本の強み」を次のように分析します。
「日本が強いところは、やはりAIを使いこなすところじゃないかなと思っています。日本はやおよろずの国で、いろんなユースケースに対して『オタクなまでに』結構作り込む。これは日本の強みです。ですから、日本の勝ち筋はAIの社会実装をちゃんとやりきるというところだと思っています」(渡辺氏)
インターネット上のデータが学習し尽くされつつある今、次に重要になるのは「現場データ」や「暗黙知」です。これを推進するため、経済産業省は人材育成にも大きく注力しています。
「今あるデータを学習すればAIになるわけではなく、構造化したり適切なサイズに切ったり、そのドメインのノウハウとセットじゃないといけません。その中で、我々全員がこの世界に飛び込まなければいけない。典型的なところで言うと、毎年50万人ぐらいが受ける国家試験に、新たに『データマネジメント』の科目を新設します。全員にこのスキルを身につけて頑張ってほしい」(渡辺氏)
■ フィジカルAIで世界をリードする「協調領域」の構築
話題は、日本が強みを持つ製造業とAIの融合「フィジカルAI」へと移ります。
「フィジカルAIは、ソフトウェアだけでなくハードウェアとの『すり合わせ』が非常に求められます。自動車やロボットなどのすり合わせは、やはりオタク的な日本が非常に得意な分野です。インターネット上にはない現実世界のデータが必要になる。ここが日本の勝ち筋というか、頑張らないといけないところです」(渡辺氏)
「ロボットの基本動作を学習した汎用的な知恵(基盤モデル)は、すぐにお金になるものではありません。ですから、この部分はすでに『協調領域』として皆さんに提供していきます。そこにCODASのような技術も使いながら、自分たちのユニークなデータを使って上側の特化モデルを作っていってほしいと思っています」(渡辺氏)
■ 協調と競争の「境界線」を支えるCODASへの期待
セッションの終盤、渡辺氏から企業とCODASに向けた力強いメッセージが送られました。AIの性能を上げるためには多様なデータを集める必要がありますが、現場データは企業の競争力の源泉であるため、容易には外に出せません。
「できるだけ多くの多様なデータを学習してAIの性能を向上させたいという欲求と、現場データは競争力そのものだから主権を確保したいというバランスが非常に重要になってきます」(渡辺氏)
「汎用的なインフラは使いながら、個人や個社は『自分たちが付加価値を出せるところ』に特化していく。しかし、これを分ける(境界を引く)のはそんなに簡単ではありません。ですから、この分類をする技術をオープンソースで提供するCODASには、そのバランスを簡単に実現できるようになることを非常に期待しています」(渡辺氏)
この言葉を受け、長谷川氏は「しっかりと刻み込みました。CODASメンバーも気が引き締まったと思います」と応じ、セッションの本編を締めくくりました。
④ 質疑応答内容
セッション後には、会場の参加者からの質疑応答が行われました。
Q. G社 S氏 「秘匿AIの社会実装を進める上で困っているのが『仲間作り』です。現場データは各社の競争力の基盤ですが、データを秘匿して学習させた後、モデルをオープンにする際、データを提供した側のインセンティブや独自の競争力をどう保てばよいかという点が大きな課題として認識されています。この部分の進め方についてご意見をお聞かせください」
A. 渡辺 氏 「競争力の源泉を支えるデータやノウハウは、他人に使わせればその企業のものではなくなってしまうため、当然公開できないし出さないですよね。しかし、だからといって下から上まで全部のデータを自分たちだけで学習させないといけないかというと、そんなはずはありません。 例えば金融業界であれば、複数の銀行のデータを集めて性能を上げた『汎用モデル』はみんなで使い、その銀行にしかできない『特化モデル』は自分たちだけで使う。その代わり、お客さまにはより価値の高いサービスが提供できるようになる。この『モデルを分ける』という見極めをそれぞれの個社でやっていくしかないのだと思いますし、これからの組織がやらないといけないことだと考えています」
Q. E社 K.R.氏 「素晴らしい取り組みですね。私たちも早く使い始めたいのですが、今から導入を始める組織が、実際にトレーニングや完全な導入を完了するまでにはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?」
A. 長谷川 氏 「私たちはNEDOから3年間のプロジェクトを受注し、現在その研究開発に取り組んでいます。今日はローンチイベントであり、まだ初期段階ではありますが、3年以内には頻繁なアップデートとオープンソースに関する発表を行っていきます。メールマガジンやDiscordを通じて最新情報をお届けしますので、ぜひ引き続きご注目ください」
「CODAS Community」へのご参加・ご登録について
一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)では、「Privacy-First AI」基盤の構築と持続可能なAIエコシステムの発展に向け、研究者・エンジニア・法務・政策・ビジネス・市民など、立場を越えてオープンに集い、秘匿AIの未来を共に創る共創プラットフォーム「CODAS Community」のメンバーを募集しています。
■ 法人企業様のご参画
CODASの理念や取り組みにご賛同いただき、AIエコシステムの社会実装や標準づくり、共創プロジェクトを共に推進していただける法人企業様を募集しております。ご入会や連携に関するお問い合わせ・お申し込みは、下記フォームより承っております。
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CODASについて
一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)は、「安全・安心なAI社会」の実現を目指す非営利・中立の法人です。データプライバシー技術の研究開発と、そのオープンソース化による社会実装を推進しています。データを外部に出さずにAIを高度活用できる「Privacy-First AI」基盤を「創る・使う・広げる」ことを基本理念に掲げています。
- 代表理事:花岡 悟一郎
- 設立:2025年10月
- URL:https://codas-ai.org/jp
≪本件に関するお問い合わせ先≫
一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)イベント事務局 E-mail:info@codas-ai.org