【開催報告】BUILDERS & BREWS HACK EDITION 東京
Nebiusがハッカソンの案内を発表すると共に、Sovereign AIやフィジカルAIの実例を交え、データ主権とPrivacy-First AIの実装に向けた最新動向と課題について、国内外の有識者・開発者と活発に議論が交わされました。
【開催報告】BUILDERS & BREWS HACK EDITION 東京
9月9日(水)、渋谷ソラスタコンファレンスにて「BUILDERS & BREWS HACK EDITION」東京イベントが開催されました。本イベントは、CODAS、Nebiusの共催、Tavily、Swarm、Endeavor Japan、AKINDOのパートナーシップのもと、17:00から21:00にかけて実施され、多くの開発者や起業家が集う熱気あふれる場となりました。
あいにくの雨天にもかかわらず、開発者、スタートアップ関係者、事業会社のエンジニア、プロダクトマネージャー、創業者まで多様な参加者が集まり、終了時刻まで議論とハンズオンが続く一日となりました。当日の様子をお届けします。
① 開催概要
- イベント名: BUILDERS & BREWS HACK EDITION 東京
- 日時: 9月9日(水)17:00〜21:00
- 会場: 渋谷ソラスタコンファレンス
- 共催: CODAS、Nebius
- パートナー: Tavily、Swarm、Endeavor Japan、AKINDO
② 当日の様子
■ Nebiusより開会の挨拶
イベントは、Nebiusの開発者コミュニティ責任者であるAlice Lin氏による開会の挨拶で幕を開けました。Lin氏は、「BUILDERS & BREWS」が世界20都市を巡るグローバルツアーとして展開されること、そしてその記念すべき第1回の開催地が東京であることを紹介しました。
挨拶に続いて、現在開催中の「Nebius x NVIDIA Global AI Hackathon」についての紹介が行われました。このハッカソンは「オープンなインフラストラクチャ上でAIの次なるフロンティアを構築する」ことをテーマに掲げ、賞金総額は5万ドル以上にのぼります。
■ CODASより開会の挨拶
続いて、CODAS(一般社団法人AIデータ主権共創機構)から、事務局長の岡田隆太朗と最高プロジェクト責任者の長谷川潤が登壇しました。岡田は、2017年から日本ディープラーニング協会(JDLA)を立ち上げ、AIの社会実装に取り組んできた経緯に触れ、その延長線上にCODASの活動があると説明しました。
なぜ今、データ主権が必要なのか?CODASが目指す世界
長谷川のプレゼンテーションでは、CODASのビジョン「安心/安全なAIを、すべての人に。(Safety / Security AI for all)」が力強く語られました。自動車のシートベルトやエアバッグ、交差点の信号機、AED、さらには防犯カメラや火災報知器、生命保険といった仕組みが人々の安全を守り利用率を向上させるように、セキュリティの向上がデータ流通を加速させると強調しました。
自動車が登場した当初は走行性能が競われ、その後に安全性への関心が高まったように、AIもいま同じ転換点にある——長谷川はそう述べ、エージェントのジェイルブレイクや脆弱性、情報漏洩といったニュースが日々報じられる現状を指摘しました。
現在、生成AIは文書作成やソフトウェア開発などで日常的に使われていますが、入力したデータは海外のAIサービスに吸収されてモデル学習に利用され、一度公開されると元に戻すことはできません。モデル間の性能差が縮まりつつある今、「モデルはいずれコモディティ化し、データそのものの価値が上回る」との見立ても示されました。また、米国のCLOUD法により、サーバーの所在地に関わらずデータ開示が法的に義務付けられるリスクがあり、規約上の約束だけではデータを守りきれない構造的な問題が指摘されました。
これらの課題を解決するため、CODASは「データ主権の確立」「設計段階からの保護(Privacy by Design)」「オープンな非営利協創」の3つを軸に活動しています。成果はオープンソースとして公開し、コミュニティからのフィードバックを受けて改善していく方針です。すでにNEDOの委託事業「ポスト 5G 情報通信システム基盤強化研究開発事業/データの秘匿性を考慮した効率的な AI 学習手法の開発」に採択されているほか、UCLA、EAGLYS、ABEJA、Yoii、Acompany、Trive、Omise、Endeavor、NRIなど、国内外の強力なパートナーとエコシステムを構築していることが報告されました。
■ Nebiusテクノロジーセッション:AI Cloud / Token Factory
NebiusのクラウドソリューションアーキテクトであるGuanru Huang氏からは、同社のインフラスタックについて解説が行われました。Nebiusはナスダック上場企業であり、NVIDIAの戦略的パートナーとしてデータセンターをハードウェアからソフトウェアまで垂直統合で構築していることが紹介されました。
AI Cloud については、「スーパーコンピュータの性能とハイパースケーラーの柔軟性を兼ね備えたAI専用クラウド」という位置づけが示されました。GPUを仮想化せず直接アクセスできる仮想マシン、マネージドKubernetes、GPU間通信のNVIDIA InfiniBandに加え、分散学習向けの共有ファイルシステム、オブジェクトストレージ、一時キャッシュ用のローカルNVMe SSDといったストレージ構成が解説されました。また、Kubernetes上でジョブスケジューラを動作させるオープンソースのオーケストレーション基盤により、研究者は慣れたクラスタ環境を、DevOpsエンジニアはKubernetesとして管理できる点が紹介されたほか、インフラ管理不要のServerless AI(学習ジョブ/推論エンドポイント)も取り上げられました。
■ フィジカルAIデモ:ロボットに触れる
続いて、フィジカルAIビルダーエコシステム プリンシパルのDhruv Diddi氏が登壇。「ロボティクスの本場である東京で話せることは特別」と述べ、講演とライブデモを行いました。
デジタルAIの誤りは修正できても、物理世界での誤りは人命や財産に関わる——この前提のもと、ロボティクスの難しさは「3つのコンピュータ問題」、すなわちデータ収集用、シミュレーション/学習用、エッジ推論用と、それぞれ異なる計算環境が必要になる点にあると整理されました。Nebiusはこの分断を解消するツール群を提供することを目指しているといいます。
会場では、Hugging Faceのオープンソースロボットアームが回覧されました。リーダーアームとフォロワーアームによるテレオペレーションで軌道データを収集し、模倣学習によって学習させる流れが実演され、Nebius上で事前に学習させたモデルによる自律的なピックアップ動作のデモも披露されました。学習・データ拡張・デプロイ管理を担うオープンソースのPhysical AI Workbenchも紹介され、エージェント経由で数行のコマンドから扱えることが示されました。
質疑では、「現実世界は早送りできない」という制約に対し、用途・環境を限定した最適化された学習戦略や、エッジとクラウドで役割を分ける推論アーキテクチャ(安全制御やバランス制御はエッジ、計画・推論はクラウド)が論点となりました。
■ Sakana AIセッション:主権型AI(Sovereign AI)
Sakana AIのリサーチサイエンティストであるStefania Druga氏が登壇し、「主権型AI(Sovereign AI):最先端モデルの日本への適合」をテーマに講演しました。
Druga氏は主権型AIを「社会やコミュニティが何を重視するかを決められるコントロールパネル」と表現し、データ・モデル・計算とワークロードの配置・評価、そして最終的なアカウンタビリティという各レイヤーで意思決定が必要になると述べました。
日本固有の課題としては、単に「日本語が話せるモデル」では不十分であること——敬語などの言語レジスター、方言、翻訳を超えた文化的・社会的規範、企業固有の業務ワークフロー、明文化されていない暗黙知、そして日本独自の監査・規制——が挙げられ、ローカライゼーションを「データ→評価→適応(ポストトレーニング)→ルーティング→インタラクション設計→ガバナンス」というスタックとして捉える視点が示されました。
具体例として、同社が今年初めにリリースした一般向けプロダクトの開発が紹介されました。敬語・カジュアル表現・関西弁への対応(関西弁は特にユーザーに好評だったとのこと)に加え、基盤モデルに含まれる政治的バイアスの除去、中立性と事実正確性に関する独自評価の実施、そして分野・地域の専門家と協働した選好データの構築が重要だったと語られました。
質疑では、「文化に固有のものを残すべきかどうかをどう判断するか」という問いに対し、事実情報については価値判断の余地なく正確に提供すべきであり、価値観に関わる問いについては専門家パネルやConstitutional AIのようなアプローチが試みられているものの、依然として難題であるとの回答がありました。
■ CODASテクニカルセッション
イベント後半では、CODASのテクニカルヘッドの中越洋による、生成AIのためのプライバシー保護に関する専門的なワークショップ(Privacy Preservation for GenAI)が行われました。
中越は、企業がAI導入において「データ漏洩(70.3%)」や「プライバシー侵害(65.0%)」を重大なリスクと捉えている調査結果を提示しました。AIの学習フェーズでは機密情報がモデルに恒久的に吸収・記憶されるリスクがあり、推論フェーズではプロンプトやログを通じてクエリごとにデータが漏洩するという「二重の脅威」が存在します。オプトアウトの手段が用意されていないサービスも存在すること、米国企業には政府機関への開示義務が及び得ることも、あらためて指摘されました。
学習パイプラインについては、データ準備段階でのPII検出・除去・合成データ置換、来歴(プロベナンス)の検証、ポイズニング対策のフィルタリングから、学習段階での記憶化(memorization)対策としての差分プライバシー(DP)等の制御まで、段階ごとの脅威と対策が整理されました。
これに対し、データを1箇所にプールできない状況下でも、複数の組織が共同で安全にモデルを学習するためのアプローチとして、以下の手法が詳細に比較・解説されました。
- 連合学習(Federated Learning): 生データを外部に出さず、各拠点でのモデル更新情報のみをサーバーに集約する手法(ただし更新情報自体からの漏洩リスクには別途対処が必要)。
- マルチパーティ計算(MPC): データを暗号的に秘密分散し、複数の計算ノード間で協調して計算を行うことで、生のレコードや中間値を含むすべてを隠蔽する手法。
- 準同型暗号(HE): データを暗号化した状態のまま計算を行う手法(計算コストの高さが課題)。
- ハードウェアエンクレーブ(TEE): GPU等のセキュアな領域で計算を実行し、クラウド事業者や他のテナントからもデータを隠蔽する手法。
いずれの手法にも長所と短所があるため、実務では「連合学習+MPC」「連合学習+HE」「連合学習+DP」といったハイブリッド構成が現実的な選択肢となることが示されました。
一方で課題として、差分プライバシーは広く知られた技術でありながら、実運用に耐える形で継続的に保守されているライブラリが十分ではないこと、プライバシー予算やプライバシー会計といったパラメータ設定が実務上きわめて難しいことが挙げられました。CODASはこのギャップを埋めるべく、企業レベルで利用可能なライブラリの研究開発を進めていく方針です。
最後に、CODASの研究開発チームが推進する、AI推論環境や、MPC/HEを活用した統合的推論フレームワークについて、2027年10月および2028年3月のリリースを目指す具体的な開発ロードマップが発表されました。
■ パネルディスカッション:地域のビルダーにとっての機会
プログラムの締めくくりには、SwarmのグローバルエコシステムリードであるTim Santos氏をモデレーターに迎え、Huang氏、Diddi氏、Druga氏による白熱したパネルディスカッションが展開されました。
「好きなバズワード・苦手なバズワード」というアイスブレイクでは、「Sovereign AI」「GPU不足」「AGI」「バブル」といった言葉が挙がり、特にAGIについては「定義が人によって異なり、意味が希薄化している」「重要なのは検証可能で有用な成果である」といった率直な意見が交わされました。
「ローカルなビルダーにとっての機会は何か」という問いに対しては、次のような論点が共有されました。
- 独自データ: スケーリング則が限界に近づくなか、差別化要因は事前学習・事後学習に用いるデータの質。他のどこにも存在しないローカルデータこそが最大の武器になる。
- ロボティクスとフィジカルAI: 現実世界のロングテールな多様性に対応するデータは地域ごとに収集されるほかない。日本は製造業の強みを活かし、ハードウェアの製造からソフトウェア開発、実装までを一貫して行える。1970年代の日本発の考え方である「3K(きつい・汚い・危険)」の自動化という観点が、いまも有効な着眼点として紹介されました。
- 市場と政策: 英語圏・中国語圏を除けば、日本ほど規模のある単一言語市場は多くない。加えて、AI開発を支援する政府プログラムが充実している。
- コミュニティ: 変化の速度に一人で追随するのは困難であり、共に学ぶことが最も効率的。東京にも初心者から研究者まで受け入れる活発なコミュニティが育っている。
- AIリテラシーと参加: 誰が意思決定の場にいるのかが重要であり、製造ロボティクスの長い経験を持つ人など、異なる背景と専門性を持つ人々を招き入れることが不可欠。
また、地域ごとのエコシステムの違いについても、GPUの価格や供給が北米に偏っていること、それがどのような研究を発表できるかにまで影響していること、各国・各地域が自国の強み(台湾の半導体製造、日本・中国のロボティクス、欧州の規制対応など)を軸にスタックのどこを押さえるかを選択している状況が語られました。
■ ネットワーキング
その後の軽食を交えたネットワーキングでは、参加者が自身の専門分野や「共同創業者を探している」といった目的を示すカラーステッカーを着用し、ハッカソンに向けたチームビルディングやメンタリング、活発なアイデア創出が行われました。Nebius、CODAS、Sakana AIの各専門家に直接質問できる時間も設けられ、21時の終了時刻まで議論が続き、イベントは大盛況のうちに幕を閉じました。
「CODAS Community」へのご参加・ご登録について
一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)では、「Privacy-First AI」基盤の構築と持続可能なAIエコシステムの発展に向け、研究者・エンジニア・法務・政策・ビジネス・市民など、立場を越えてオープンに集い、秘匿AIの未来を共に創る共創プラットフォーム「CODAS Community」のメンバーを募集しています。
■ 法人企業様のご参画
CODASの理念や取り組みにご賛同いただき、AIエコシステムの社会実装や標準づくり、共創プロジェクトを共に推進していただける法人企業様を募集しております。ご入会や連携に関するお問い合わせ・お申し込みは、下記フォームより承っております。
お問い合わせフォーム:https://codas-ai.org/contact
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- 公式ウェブサイト(メールマガジン登録):https://codas-ai.org/community
CODASについて
一般社団法人AIデータ主権共創機構(CODAS)は、「安全・安心なAI社会」の実現を目指す非営利・中立の法人です。データプライバシー技術の研究開発と、そのオープンソース化による社会実装を推進しています。データを外部に出さずにAIを高度活用できる「Privacy-First AI」基盤を「創る・使う・広げる」ことを基本理念に掲げています。
- 代表理事:花岡 悟一郎
- 設立:2025年10月
- URL:https://codas-ai.org/jp